和歌と俳句

釈迢空

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いこひつゝ 心やすらに なり居たり。宮の屋根より、煤ふり来るを

寺山のなぞへを占めて、さがりたり。くわぞくの 庭 庭は うらやまし

この町に、遊びくらして 三年居き。寺の墓藪 深くなりたり

阪下に 街広らなり。生ける日の 友としたしみ、人を見に来つ

憎みがたき心 ほがらに言どひて 我はもよ。友を死なせざりけり

好はしく あひ見し時の ひたやせてありし 面わを 思ひ見む。われは

山村の人の愚かを 我に告げ、ゑみがたき時に、笑はせにけり

山の家に 還り住まむよ。かたくなに、我を待つなり と さびしがりけむ

穂すゝきのみゝづく 呆けて居たりけり。日ごろ けはしく 我が居りにけり

町溝と 濁り 泡浮く川のうへに、山吹栽ゑて、人すまひけり

かれも 此も ひと時 なりけり。軍神の高き頬骨は、ゐやまひを殺ぐ

おもかげの広瀬中佐は、よかりけり。現しきものは さびしかりけり

明神の建立 おそし。善き人の目を いたまする 焼け土の つか

まゐり来て、とみに あかるき世なりけり。町家の人の その顔 がほ

金持ちは、金持ちとしてあらしめむ。この塀も かの大松もよし

とゝのほる屋並みに向きて、いにしへの荒野の姿 想ひ見がたし

岡原の荒草なかを 彼行此行して、館処見立てし いとなみ あはれ

この館や、南に向きて、朝 夕日 直射す館 と 祝きはじめけむ

道なかに、瀬をなし流れ行く水の さゝ波清き 砂のうへかも

観音のみ堂やかじ と 言はざりし心々は、したなげきけむ