和歌と俳句

釈迢空

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仰ぎつゝ 都ほろびし年を 思ふ。このしき石に、涙おとしつ

国びとの 心さぶる世に値ひしより、顔よき子らも、頼まずなりぬ

おどろかぬ心にし ありけり。麻布でら 大き銀杏を 見に来たりけり

こゝにても、行人は住み居りて、賑ふ三味を さびし と言ふらむ

停車場の人ごみを来て、なつかしさ。ひそかに 茶など飲みて 戻らむ

あわただしき人の 行きかひを 見て居り。心ほがらに、まさびしきかも

ひたすらに 旅にむかへり。我が心。遠ゆくむれを まもり居りつゝ

ほのぼのと み苑の芝原 色映えて、大き御門の をがまれ給ふ

司びと 事あやまてど、何ごとを 大き御門に向きて まをさむ

大君の昼のおまし 近からむ。心明らかに つゝましきかも

国土稚く 世は太初に還るらし。心むなしく 大庭に居り

大君の内つみ庭の 土のうへに、いちじるしもよ。うつる 我の影

大君の御門の衛士の 髯ぬきてあるに、現実しき 我が身と知れり

大君の大き御門の門守りは、叱らむとすも。我が着る物を

日のうちを おほかた とざす家のなかは、物の在り処の、ひそかにあらむ

人の家に、ひそかに来り、ひそかに去る このやすらさは、人に告げじな

なめらかに、輪痕をつくる自動車の 追ひ風 かろく ほこりをあげず

この国の語を 朽ちにせずありし 羅先生に、我も似て来るつ

あゆみ来て たゝずめりけり。言出でて はたとせ遂げぬ かね言のある

友多く うとくなりゆく 時の末に、國學院のあとを 見に来つ