和歌と俳句

釈迢空

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石見のや 山寒邑を目に熟れて、狭く さがしく 汝は 生ひにけり

幼くて うからなごみを知らざりし 性と思へど、さびしかりけり

八年まで 叱りきためて、かひなさよ。この たはれ男は うつらざりけり

いやはてに 我が言ふ語ぞ。あはれよ と 自今以後も、汝を思はむ

ほとほとに 我が倦みにけむ。汝を見じ と思ひさだめて 下安らさよ

世の相に 思ひ深めよ。ありさりて、我が心を知ることも ありなむ

乞丐も、虚無の徒党も、偶双ひ 賑へる世は、亡びざりけり

汝に説きて、強ふるは止めむ。 歩み来て 人間の道 さびしかりけり

わがあとに 来し跫音も せずなりぬ。身は ほがらさの まさびしきかも

さびしさに 堪へむと思ふを、人と居る 心饒柔の こほしかりけり

これの世は、屋並み賑ひ、人満ちて、語なごやかに とひかはすらし

あしき人に、善き人双ひ 善きひとも、事あやまちて、あはれなる 世や

かならずも 親の 子思はぬ世なりけり。ひたぶるに 人は 恋ふべかりけり

世の澆季の誠と思はむ。恋ひびとぞ もの言ふ時に、わななきにけり