和歌と俳句

釈迢空

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兵隊にとらるることの にぎはしき 心をどりは、さびしかるべし

兵隊のからだ苦しき 安らさは 告げやすからず。若き人にむきて

さかりつつ 昼となり来る 汽車のまど。敦賀のすしの とればくづるる

煤まぜに すず風とほる 汽車のまど。寝つつ 思へば、遠のきにけり

さかり来て、いよいよ さびし と ぞ思ふ。能登のみ崎の おほ海の色

夏海の 荒れぐせなほる昼の 空。われのあゆみは、音ひびくなり

ことしも 来て、この家の前庭に、向ひ居り。あるじなやまひ こぞのままなる

声ふえて 鳴くなる蝉か。あかり来る 屋敷林の、梢を見につつ

いとまつげて いなむ と思ふ。昼ふけて あるじの臥処は、ひそまりて居り

朝の飯 湯気立ちてゐる のどけさを 人とむかひ居、言へば さびしさ

日ならべて、旅のくるしさ。汗ぬぐふ われの心は、泣かむとするも

家びとの老いを 省に来し 大阪の とよもす町は、住みがたきかも

河波の夜の やはらぎを 聴き剰し 洲に臥る人を 逐ひうつなかれ

河波の濁りかがやく 曇り空 魚を焼かせむ。船にいこひて

道頓堀 橋のうへより、おほさざき 神のいらかに 棲る鳥の見ゆ

ひたすらの 心なごみや 小屋ひろし。天井ながめ 人顔ながめ

おもしろく 打つしころかな。その踊りを見つつ 思へば、忘れ居にけり

おのれまづ たはれ遊びし にはかしの をこの笑ひは、人忘れけむ

自安寺の髯剃小路 見しりあり。残れるものの、ゆくりなきかも

もろ膝を あらはに 土のうへにゐる かたゐも見れば、かれ笑ひけり