和歌と俳句

釈迢空

前のページ<< >>次のページ

われに言ふ 人の心のかくれなし。酔ふをおそれて、あるが さびしさ

酔へば 心 ひとむきなりけり。門弟子のさがを 我が憎み、逐ひてうたむとす

いきどほりの 心 をさまり行くを 覚ゆ。按摩をとらせ わが居たりけり

朝闇に、郭公が 近く鳴きにけり。今日は、ひそかの心にてあらむ

物喰めば、ほがらの心 わき来もよ。細螺の殻を、歯に破らむとす

おりたちて、磯の小貝を つつきくじり、浦の子の喰ふ如く 喰ひつつ

柴負ひて 来る子 くる子も、顔よろし。かかる磯わに、なごむ村あり

子どもらは、背負縄かけて 続きたり。放課時間の里ゆきとほる

山路来て、髣髴さびし。激つ瀬の泡 脣ひびく 炭酸水のいろ

燈のつきて、おちつく心 とび魚の さしみの味も、わかり来にけり

黙行く心 知らざらむ。連れ人は、みなから若く たのしむらしも

はかなさは 告げじとおもふ。おのづから 先だち歩み ひたすらにあり

緊り来る夜目あはれなり。若き人の、起きてする如く 寝てふるまふに

ふたたびは、訪はずや あらむ。屋敷森の掘り井の水を 口含みつつ

にぎはしき 港なりけり。うち出でて 見る島々も、家むら多し

緑濃き 能登の島かも。海ぎはまで、かたぶく畠に 穂麦赫れる

ありうさに 息づく人も、なし と思ふ。能登の七尾に、われは来てけり

苦しみて つひに 遂げざらむ つくづくに、世の和平のこほしかりけり