はやりかに ものは 言ひしか。かつがつに よき十四郎を 見ずならむとす
ほがらかに 心 ならむとす。とぼしくて ひそかになりし人 と思ふに
人の死ぬることを かなし と思はねば、この伝言の ひたに さぶしさ
畳のうへに はらばひ あぐる乳児の顔。さびしき家を うたがふらしも
為事にありつかせよ と言ふ人に、向きて ささえをり。熱のあるからだ
あすの夜の旅を ひかへ、つかれをり。熱もちて思ふ。壬生の念仏を
気多の村 若葉くろづむ時に来て、遠海原の 音を 聴きをり
蔀にひびく 海の音。耳をすませば、聴くべかりけり
海のおと 聞えぬ隈に、宮立てり。ひたに明るき 蔀のおもて
こぬれことごと 空に向き、青雲は、今日も 雨 なかりけり
たぶの木のふる木の 杜に 入りかねて、木の間あかるき かそけさを見つ
はろばろに 見隠れにけり。ひとつらの 汽車のわだちの 音 残りつつ
砂山の 背面のなぎさも、昏れにけむ。夕とどろきは、音つのりつつ
このゆふべ 潟の田うゑて もどるらし。声に ひびくは、遠世の人ごゑ
わたつみの響きの よさや。松焚きて、棲初めし夜らに、言ひにけらしも
見のかぎり 波なる浜を わびにけむ。あから頬の子も、祖となりつつ
祖々も さびしかりけむ。蠣貝と たぶの葉うづむ 吹きあげの沙
わたの風 沙吹きあぐる しくしくに、うき村住みを おもひけらしも
ひと列に 白きは、ちさの盛りならむ。こよひの凪ぎに、しづまる家むら
蜑をみなの 去にしを思ふ。あしがたの、いつまでもある 門のしきゐ
まれに来て、心おちゐぬ。目ぐすりの古法つたふる家 と言ふなり