和歌と俳句

釈迢空

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雪の来ること おそき年 と思ひ居り。羽織のしつけ とりて著むとす

おしつまりて、にはかに寒し。人よびて、夜着のつもりを 立てさせにけり

還り来む時を なし と思ふ。ひたぶるに 踏みてわが居り。冬草のうへ

学校の庭 冬ふかくそよぐ 草の穂や。なにを はばかりて居たる 我ぞも

学校の屋敷を かぎる寺林 冬に入りぬる ゆづり葉の垂り

なにゆゑの涙ならむ。つくばひて 我がゐる前の 砂に 落ちつつ

休み日の講堂に 立ちて居たりけり。見る見るに、こころ かろくなるらし

十日着て、裾わわけ来る かたみ衣。わが師は つひに とぼしかりにし

師の道を つたふることも絶えゆかむ。我さへに 人を いとひそめつつ

まづしさの はたとせ堪へて 死にゆける 師の みをしへは、明らめがたし

いにしへのおほき聖は、酔ひ酔ひて ゑひなきてこそ 心 澄みけれ

七月十七日、師の日と思ふ 今日の日や。いたみ出づる歯を こらへつつ居む

師のおもわ 想ひ得がたくなり行くか。写真のみ眉 見おぼえなくに

声はりて わがものまをす いささかの 心勉りをも、喜びたまへり

大君は あそばずありき。髣髴に 夏山河を 見つつ なげけり

霜月の日よりなごみの 空ひろし。天つ日高は、斎籠ふらし

大嘗会 近づきにけり。ことごとに 足らふに似たる 心 さびしも