和歌と俳句

釈迢空

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春の日の うららに人のみち来たる 島山林 風さわぐなり

海なかの島のやしろに 来て住めば、日に疲れつつ、思はざりけり

巌くえの落つるひびきを いぶかしみゐるその間さへ、たのしかりけむ

巌崩えの下にも 君がなりゆくか。さびしけれども、これを思はむ

吹きすぎて しづまる風か。おのづからこまごまとうごく 叢のいろ

ひたすらに 若く あはれにもの言ひし またたくにしも、過ぎにけるかも

この日ごろ 人つぎつぎに去りゆきて、日ねもす 春は さびしかりけり

何とぞして これをつかひやりくれと 手をつきにけり。友だちのまへに

さ夜深く 読みつぐふみの 読みがたし。湯をたぎらして あはれと言ふも

夜はの波の かぐろきを思ふことなくなりて、はたとせあまりは、過ぎにけらしも

かならず さびしきことにあらねども、若き人 おほくさきだちにけり

はかなさは いはほの下に人死にて、しらせある日も、客みちて居り

朝あけて 心ほがらになり居たり。しづけき山を 出でて見むとす

ふたたび来て 道くだりゐる心なり。村の磧に、子らもあそばず

桑畠の霜荒れ土に 昼日照り、まねく乾きて、とほき もの音

しづかなる 山の冬木の霧ごもり、さびさび 見ゆる梢のひと列

年かはる夜の 静けさよ。い寝むとして 心をどりを おさへかねつも