和歌と俳句

釈迢空

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湯の村の家のありどの 明らかに、春日かがやくしづけさを 見つ

静かなる山の昼かな。日の色の 澄み明らけき道の上の 虫

山なかに 人はばからず住みひろげ、道まで咲ける栽ゑ草の花

あかあかと 山のつつじは残れども、風吹きゆする 夏山のひびき

旅ごころ うつぎ うのはな 山の木の白むを見れば、なげかむとすも

ひそかなる阪を越え来つ。山の木の深きとよみを 我は聴くなり

たたずめば、声ひそやかに鳴きうつる 松蝉の声━━あはれ きこゆる

松山に入り坐て 久しとぞ思ふ。山のすがるの唸り 澄みつつ

行き逢ひて 忽 遠し。いくたりか 高声ひびく 村山の奥

裾長き山原 皐月あたたかし。土出でて飛ぶ 山の虫けら

けどほき 昼をしづまる山なかに、見過しにけり。虫のいどみを

むらむらと 夏まだ浅き山の端は、燃えやすく見ゆ。青萱の色

青々と曇り深まる山原に 焚く火の色の、親しく思うほゆ

山中の金くそ土の虎杖は、たけには立たず 太く曲れり

朝草刈に 人出ではらふ崖の村。青々として ふり来るゆふだち

谷々の若葉は すでに色こはし。山の曲線の おもりかに見ゆ

谷の木の とほき木むらの藤なみは、とばかり見えず。色のあはきに

山中に来入り かそけき心なり。松の葉黄は、伸びはてにけり

昼とほく 村離れ来し松のなか━━。あはれ 松風の音の、ひびける