和歌と俳句

釈迢空

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庭なかに 鳴きよる鳥の声澄むを 寝欲しき心 聴きて居るなり

鳥のこゑ 時々きこゆ。村の夜のひそまり行けば、とよみて聞ゆ

日ごとに あたまいたみて寝ねがたき 夏をはかなく すごさむとする

夜深く 水をかぶりて再寝するくせを をかしげに人に聞しつ

灯を消して 夜鷹の声はやみにけり。何ごともなき闇を おもへり

山里は 桜もなごり。行く我に 夜をとほして踊る人かも

村びとも 盆のをどりを 春深き山の五月に、をかしからめや

ほのぼのと 朝づたひ来る人のこゑ━━。あはれのことや 人の 死にける

よべ暑く 一夜つかれて寝しほどに、この朝しづけき 人のこゑごゑ

蝉のこゑ こぞりておこる朝牀に、手足のべつつ 人を惜しめり

思へどもなほ あはれなり。死にゆけば、よき心すら 残らざりけり

庭暑き萩の莟の、はつはつに 秋来といふに、咲かず散りつつ

朝よりの暑さに起きて、ものぐさく、畳につづく虫を 見て居り

この夏や 惜しき人おほく死にゆきて、かかはりなきが、さびしかりけり

これの世に 苦しみ生きてみつぎするわがはらからは ことあげをせず

我よりもまづしき人の着る物を、見るに羨しく ととのほりたり

ことさらに人はきらはず。着よそひて行かむ宴会を ことわりて居り

見るふみも おほくはわびし。まづしさをいきどほろしく あげつらふなり

まづしさは 人に告げねど、ねもごろに遊べる人を見れば、おもほゆ

炭焼きの子にも生ひ出ず はつはつに 口もらふなり。学問によりて

よき家に生れざりしを身の不請に 思へと言ひし親は、かなしも

親々の心かなしも。富み足りて さてこそ子らは生さめ と言ひし