和歌と俳句

柿本人麻呂

万葉集・巻第二・相聞
石見乃也高角山之木際従我振袖乎妹見都良武香

石見のや 高角山の 木の間より 我が振る袖を 妹見つらむか

万葉集・巻第二・相聞
小竹之葉者三山毛清尓乱友吾者妹思別来礼婆

笹の葉は み山もさやに さやげども 我れは妹思ふ 別れ来ぬれば

万葉集・巻第二・相聞
青駒之足掻乎速雲居曽妹之當乎過而来計類

青駒が 足掻きを速み 雲居にぞ 妹があたりを 過ぎて来にける

万葉集・巻第二・相聞
秋山尓落黄葉須曳者勿散乱曽妹之當将見

秋山に 散らふ黄葉 しましくは な散り乱れそ 妹があたり見む

万葉集・巻第二・相聞
石見之海打歌山乃木際従吾振袖乎妹将見香

石見の海 打歌の山の 木の間より 我が振る袖を 妹見つらむか


万葉集・巻第四・相聞
三熊野之浦乃濱木綿百重成心者雖念直不相鴨

熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へど直に逢はぬかも

万葉集・巻第四・相聞
古尓有兼人毛如吾歟妹尓戀乍宿不勝家牟

いにしへにありけむ人も我がごとか妹に恋ひつつ寐ねかてずけむ

万葉集・巻第四・相聞
今耳之行事庭不有古人曽益而哭左倍鳴四

今のみのわざにはあらずいにしへの人ぞまさりて音にさへ泣きし

万葉集・巻第四・相聞
百重二物来及毳常念鴨公之使乃雖見不飽有武

百重にも来及かぬかもと思へかも君が使の見れど飽かずあらむ

万葉集・巻第四・相聞
未通女等之袖振山乃水垣之久時従億寸吾者

娘子らが袖布留山の瑞垣の久しき時ゆ思ひき我れは

万葉集・巻第四・相聞
夏野去小牡鹿之角乃束間毛妹之心乎忘而念哉

夏野行く小鹿の角の束の間も妹が心を忘れて思へや

万葉集・巻第四・相聞
珠衣尓狭藍左謂沈家妹尓物不語来而思金津裳

玉衣のさゐさゐしづみ家の妹に物言はず来にて思ひかねつも


鴨山之磐根之巻有吾乎鴨不知等妹之待乍将有

鴨山の岩根しまける我れをかも知らにと妹が待ちつつあるらむ