打日刺宮道人雖満行吾念公正一人
うちひさす宮道を人は満ち行けど我が思ふきみはただひとりのみ
世中常如雖念半手不忘猶恋在
世の中は常かくのみと思へどもはたた忘れずなほ恋ひにけり
我勢子波幸座遍来我告来人来鴨
我が背子は幸くいますと帰り来と我れに告げ来む人も来ぬかも
麁玉五年雖経吾恋跡無恋不止恠
あらたまの五年経れど我が恋の跡なき恋のやまなくもあやし
石尚行應通建男恋云事後悔在
巌すら行き通るべきますらをも恋といふことは後悔いにけり
日竝人可知今日如千歳有与鴨
日並べば人知りぬべし今日の日は千年のごともありこせぬかも
立座態不知雖念妹不告間使不来
立ちて居てたづきも知らず思へども妹に告げねば間使も来ず
烏玉是夜莫明朱引朝行公待苦
ぬばたまのこの夜な明けそ朱らひく朝行く君を待たば苦しも
戀為死為物有者我身千遍死反
恋するに死するものにあらませば我が身は千たび死にかへらまし
玉響昨夕見物今朝可戀物
玉かぎる昨日の夕見しものを今日の朝に恋ふべきものか
中々不見有従相見戀心益念
なかなかに見ずあらましを相見てゆ恋しき心まして思ほゆ
玉桙道不行為有者惻隠此有戀不相
玉桙の道行かずあらばねもころのかかる恋にはあはざらましを
朝影吾身成玉垣入風所見去子故
朝影に我が身はなりぬ玉かきるほのかに見えて去にし子ゆゑに
行々不相妹故久方天露霜沾在哉
行き行きて逢はぬ妹ゆゑひさかたの天露霜に濡れにけるかも