和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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打日刺宮道人雖満行吾念公正一人

うちひさす宮道を人は満ち行けど我が思ふきみはただひとりのみ

世中常如雖念半手不忘猶恋在

世の中は常かくのみと思へどもはたた忘れずなほ恋ひにけり

我勢子波幸座遍来我告来人来鴨

我が背子は幸くいますと帰り来と我れに告げ来む人も来ぬかも

麁玉五年雖経吾恋跡無恋不止恠

あらたまの五年経れど我が恋の跡なき恋のやまなくもあやし

石尚行應通建男恋云事後悔在

巌すら行き通るべきますらをも恋といふことは後悔いにけり

日竝人可知今日如千歳有与鴨

日並べば人知りぬべし今日の日は千年のごともありこせぬかも

立座態不知雖念妹不告間使不来

立ちて居てたづきも知らず思へども妹に告げねば間使も来ず

烏玉是夜莫明朱引朝行公待苦

ぬばたまのこの夜な明けそ朱らひく朝行く君を待たば苦しも

戀為死為物有者我身千遍死反

恋するに死するものにあらませば我が身は千たび死にかへらまし

玉響昨夕見物今朝可戀物

玉かぎる昨日の夕見しものを今日の朝に恋ふべきものか

中々不見有従相見戀心益念

なかなかに見ずあらましを相見てゆ恋しき心まして思ほゆ

玉桙道不行為有者惻隠此有戀不相

玉桙の道行かずあらばねもころのかかる恋にはあはざらましを

朝影吾身成玉垣入風所見去子故

朝影に我が身はなりぬ玉かきるほのかに見えて去にし子ゆゑに

行々不相妹故久方天露霜沾在哉

行き行きて逢はぬ妹ゆゑひさかたの天露霜に濡れにけるかも