璞之年者竟杼敷白之袖易子少忘而念哉
あらたまの年は果つれど敷桍の袖交へし子を忘れて思へや
白細布袖小端見柄如是有戀
白桍の袖をはつはつ見しからにかかる恋をも我れはするかも
我妹戀無乏夢見吾雖念不所寐
我妹子に恋ひすべながり夢に見むと我れは思へど寐ねらえなくに
故無吾裏紐令解人莫知及正逢
故もなく我が下紐を解けしめて人にな知らせ直に逢ふまでに
戀事意追不得出行者山川不知来
恋ふること慰めかねて出でて行けば山を川をも知らず来にけり
處女等乎袖振山水垣乃久時由念来吾等者
をとめらを袖布留山のみづ垣の久しき時ゆおもひけりわれは
千早振神持在命誰為長欲為
ちはやぶる神の持たせる命をば誰がためにかも長く欲せむ
石上振神杉神成戀我更為鴨
石上布留の神杉神さびて恋をも我れはさらにするかも
何名負神幣嚮奉者吾念妹夢谷見
いかならむ名負ふ神にし手向けせば我がおもふ妹を夢にだに見む
天地言名絶有汝吾相事止
天地といふ名の絶えてあらばこそ汝とわれとあふことやまめ
月見國同山隔愛妹隔有鴨
月見れば国は同じぞ山へなり愛し妹はへなりたるかも
■路者石踏山無鴨吾待公馬爪盡
来る道は岩踏む山はなくもがもわが待つきみが馬つまづくに
石根踏重成山雖不有不相日數戀度鴨
岩根踏むへなれる山はあらねどもあはぬ日まねみ恋ひわたるかも
路後深津嶋山暫君目不見苦有
みちのしり深津嶋山しましくも君が目見ねば苦しくありけり
紐鏡能登香山誰故君来坐在紐不開寐
紐鏡能登香の山の誰がゆゑか君来ませるに紐とかず寝む