和歌と俳句

山口素堂

宿からん花に暮なば貫之の

さびしさを裸にしけり須磨の月

廻廊にしほみちくれば鹿ぞなく

夕立にやけ石寒し浅間山

鴨の巣や富士にかけたる諏訪の池

遅き日やしかまのかち路牛で行

ふみもみじ鬼すむあとの栗のいが

何となくそのきさらぎの前のかほ

かくれがの芝居の市に花ちりぬ

筆始手に艶つける梅柳

長明が車にむめを上荷かな

竹植る其日を泣や村しぐれ

茶の花や須广の上野ハ松ばかり

我舞て我に見せけり月夜かげ

たけがりや見付ぬ先のおもしろさ

袖の香やきのふつかミし松の露

夕だつや石山寺の銭のおと

名月に明星ばかり宿直かな

椎の葉にもりこぼしけり露の月

さび鮎も髭にふれずや四十年

胴をかくし牛の尾戦ぐ柳哉

筬の音目を道びくや藪つばき

谷川に翡翠と落る椿かな

朝虹やあがる雲雀のちから草

村雨につくらぬ柘植の若葉かな