ほとゝぎす 玉をまゐらす 瑠璃盤に 羅のおん袖 触れにしものか
胸にのこる 誰を喚べとか 或るふしは 画蚊帳の君に 遠き蟋蟀
わが胸は 潮のたむろ 火の家と あまりあらはに 人恋ひ初めぬ
松前や 筑紫や室の まじりうた 帆を織る磯に 春雨ぞ降る
君待つと 眠れる土に 桜ふれ 天にねがはぬ たふときおん座
日に夜に 尺をちぢむる 髪ひとすぢ まゐらすものを 咀ひと云ふや
朝の人は 京うぐひすに 夢やろと 雨戸のひまに 比叡を見出でし
石を父に 氷を母に うまれにし 我と昨日は 知らざりし幸
岩かげの 四尺やすかる 昼舟や わが枝のうらに 眉かきし君
山吹の となりになるる 鶏の子が 帰り路わぶる 春の朝雨
わが君は なでしこ作る 垣根ずみ 雛の殿に やや高き家
奥しらぬ 洞ももつべき 山の巌 神秘の御名を 今ひとつ知らむ
みかど知らず 古事記しらずの やまと人を レモン咲く野に 放たせ給へ
闇の夜の 御肩に袖に ちるや梅 路ぬかるみて 狭き曾根崎
ゆく春を 白檀たきし 母がすさび 御叔父法師が うすねずみぎぬ
終の世とも 才のはてとも むくろとも 或るは見たまへ 寄るは君が手
ねがはくは 細眉あげて われぼめの 声よき歌に 浄まれ此世
誰が筆か 王者が殿の 御壁画に かたちと才の 全き我れ見む