圓けくて 肉いろの月 おぼろなり 白南風あけの 茅蜩のこゑ
身をつくす 炎なりけむか 老いつつ あはれ激しくぞ 戀したりてふ
夕かげを 月は光らず 眼前や 電線の張りを はなれつつあり
村藪は まだ暮れがてぬ 靄ながら 月高くのぼり けんけら棒の音
無線塔 相對ひ立ち 夕凪なり 暮れやらぬかなや 月ものぼるに
雨夜雲 噴き出づる月の 角見えて 鋭かりけり かなしき光
藤の棚に 雨の音しげく なりにけり 光りたりしか さきほどの月は
積亂雲 とどろ噴き立つ 日のさかり 人參の花に 我は思はむ
眞平と 根に湧きあがる 巨き雲 鐵鈷雲ぞ 吹き亂れたる
電柱と 支柱が近き 眞日照りは 諸葉しなへて 酸ゆき豊後梅
立雲の 怪しくかがやく 日のさなか 蟷螂が番ひ 雌は雄を啖ふ
下草を 而も日照りに 眼を射るは 山百合のしろき 裂長の花
よく光る 百合の花瓣や 一莖に 花は二つひらき 照り合ふその影
頸長の 鐵砲百合は 日に向くと 鉢ごとに白く 突き出すがしさ
立莖の しろく粉ふく 竹煮ぐさ 廣葉わき立ち 穂には數花
山椒の葉 摘みつくしける 庭に出て 空梅雨のあけを しみじみ感ず
藤の棚 蔽ひあまれる 藤の葉の そよぐ影見れば 照り透くもあり
大きタオル 黒き裸身に 巻きつけ來る 女童篁子 そだたきやらむ
母を虐ぐる この男の子よし つくづくと 父ははばかるを この子は成しぬ
夜明けに 白馬ヶ嶽へ 出で向ふ この子と思へば うやうやし母と