北原白秋

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我が家は 坐ながらにして 觀る雲の 空廣らなり 野のかぎり見ゆ

坐ながらに 雲の行觀る 晝つかた みんなみの空に かかる鷺あり

押し移り うしろ風もつ 綿雲の おのれ薄れて いつかむなしさ

吹くからに つぎつぎと來る 白雲の おのづからゆたに 移る風向

風向に 移ろふ雲の まろがりは 光厚うして しろき二塊

曩の雲 いづら行きけむ 今見れば さまかはる雲の 高う積みたる

仰向きに 眠る顔だち 胸高く 押し流れ行く 雲もありけり

樂しみと 雲は眺むる 夕かげを 茅蜩のこゑ 亂れ立ちつつ

曇り空 日暮もよほす 雨のまを 茅蜩のこゑの 立ちきそふめり

雨ふり雲 立ち蔽ふ森の こなた野良 家組み明し しきり音立つ

二階より 灯に照らしみる 向日葵の 花小さうして 數無かりけり

硝子戸に 白き寝臺の 影うつり 灯もうつるなり 子らが初秋

蚊帳を吊る 妻が袂は 寝たる子の 直向ふ顔に 觸りにつつあり

水のごと 白き寝臺の 下冷えて いの寝ざるらし 子らが圓ら眼

蟲の音の ほそきこの夜と 思ふにぞ あはれ一杯の 水すすりをる

眞晝ひとり 歩み來にける 砂利の道に 夏枯れの田の 風を見わたす

秋旱 防空演習 しきりなり 蒸れつくしける 稗の雉子いろ

何に立つ 水の音ならむ 思はぬを 旱はげしき 眞晝にきこゆ

夜のくだち 小雨しづみて にほひ來る 金木犀に うらなづみゐる

月の夜は 雲遠じろき 野平を 多摩川あたり 森低み見ゆ

月夜いま なにか明りて 來る聲の 隣びとらし 通り過ぎをり

和歌と俳句