和歌と俳句

齋藤茂吉

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日もすがら 断えぬ松風の 音のする 隆恩殿に 近づきにけり

石獣の そばを過りて 朝ざむき 苔の上なる 赤楝蛇の子

磚道に いつしか草の しげりしが 冬のひそけき ころとなりにし

旅びとは すなはち首 あげにけり 松かぜの吹く 大きみたまや

四つ隅に 角楼のある みたまやを 今の現に 見て過ぎむとす

暫して 寒さおぼゆる 身を安む 隆恩殿の 石の上の龍

その後に 生れて大理の 石だたみ 幾たりか踏みし 白いしだたみ

こもりたる 隆恩殿の 庭にして 冬の光は 隈さへもなし

帝らは 次々の代に 来たまはむ そのしづ心 現にせりき

乾隆の 代の碧丹なる みたまやの 雲は北ゆきて 鳥のこゑごゑ

こひねがひ つひに来りし 明楼の 朱のいろ古りぬ しづかにもあるか

日の光 させる木立に こもりたる このみささぎの 中はしづけく

みささぎの うへに年ふる 楡の樹に 鵲来啼く ひとつかささぎ

露じもの 未だ乾ぬ道に 一人をり 古への代の いきほひをもひて

一冬に 入らむよすがと 寐陵の 草に朝々 霜ふりぬべし

黄の瓦 碧き瓦の みたまやに しづまりいます ことの尊さ

もどり来て 二たび過ぐと 隆恩門の 紅き扉に 吾はむかへり