和歌と俳句

藤原良経

院初度百首

昨日まで雲のあなたに見し山の岩根にこよひ衣かたしく

散りつもる森の落葉をかきつめて木の下ながら烟たてつる

雲はねや月は灯し火かくてしも明かせば明くる小夜の中山

武蔵野に結べる草のゆかりとや一夜の枕つゆなれにけり

浮きまくら風のよるべもしらなみのうち寝る宵は夢をだに見ず

白雲の八重たつ山を深しともおぼえぬまでに住み馴れにけり

しをりせでひとりわけ来し奥山に誰まつかぜの庭に吹くらむ

山ふかみ岩しく袖に玉ちりて寝覚めならはす瀧の音かな

雲かかる山のかけはし踏み分けて入りにし道は苔おひにけり

忘れじの人だにとはぬ山路かな櫻は雪にふりかはれども

わたのはら沖のこじまの松かげに鵜のゐる岩を洗ふ白波

をちかたや岸の柳にゐる鷺の身の毛なみよる川風ぞ吹く

惜しきかな人もてかけぬ嘴鷹のとかへる山にころもへにけり

夕まぐれ小高き森に棲む鳩のひとり友呼ぶ聲ぞ悲しき

むしろ田のいつぬき川のしき波に群れゐる鶴の萬代のこゑ

玉椿ふたたび色は変はるともはこやの山の御代は尽きせじ

曇りなき雲居のすゑぞ遙かなる空ゆく月日はてをしらねば

くれたけの園よりうつる春の宮かねても千代の色は見えにき

若葉さす玉のうゑきの枝ごとに幾世の光みがきそふらむ

敷嶋や大和しまねも神代より君がためとやかためおきけむ