和歌と俳句

続後撰和歌集

十一

西行法師
世のうきに ひとかたならす うかれゆく 心さだめよ 秋の夜の月

正三位知家
ながむれば みしよの秋も わすられず 月にむかしの 影やそふらむ

入道二品親王道助
いにしへの かたみとなしの 月の色も みそぢくれぬる 秋ぞかなしき

藤原信実朝臣
くもれとや 老の涙に ちぎりけむ 昔より見る 秋の夜の月

藤原信実朝臣
老となる つらさはしりぬ しかりとて そむかれなくに 月を見るかな

源家長朝臣
秋の月 ながめながめて 老が世も 山の端ちかく かたぶきにけり

土御門院小宰相
秋の夜の 長き思ひを いかがせむ 月になぐさむ 心ならずば

土御門院御製
秋の夜も やや更けにけり 山鳥の をろの初尾に かかる月影

建保二年 秋十首奉りけるに 従二位家隆
しのびわび をののしのはら おく露に あまりて誰を まつむしのこゑ

前大納言忠良
身にしれば よるなく虫ぞ あはれなる うきよを秋の 長き思ひに

後鳥羽院御製
置く露の あたの大野の 真葛原 うらみかほなる 松虫のこゑ

藤原信実朝臣
浅茅生の 秋の夕べの きりぎりす ねになきぬべき 時はしりけり

土御門院御製
人とはぬ あさぢが原の 秋風に こころながくも まつむしのなく

後鳥羽院下野
心して いたくななきそ きりぎりす かごとがましき 老のねざめに

正三位知家
きりぎりす ながきうらみを すがのねの おもひみだれて なかぬ夜ぞなき

法印幸清
あはれにも 枕の下の きりぎりす むそぢの夢の ねざめをぞとふ

忠見
はるかなる こゑばかりして きりぎりす ねなくに秋の 夜をあかしつる

和泉式部
秋の田の いほりにふける 苫をあらみ もりくる露の いやはねらるる

式子内親王
おしねほす 山田の秋の かり枕 ならはぬほどの 袖の露かな

正治百首歌に 従二位家隆
ふきしをる みねの草木の いかならむ 袖だにたへぬ 秋のあらしに

ふきしほる 野辺の草葉の いかならむ 袖だにたへぬ 秋のあらしに