和歌と俳句

高井几董

晴るよと見ればかつ散雨のはな

花過て雨にも疎くなりにけり

花に来て詫よ嵯峨の艸の餅

葉桜の中々ゆかし花の中

廿とせの小町が眉に落花かな

花競ふ寺としもなしひがし山

底た ゝく春の隅より遅ざくら

長き日の脊中に暑しおそ桜

遅き日やひとへからげる草履道

腸を牡丹と申せさくら鯛

春の泊鯛呼声や浜のかた

山吹や胡粉の見ゆる雨の後

すみれ蹈で今去馬の蹄かな

青海苔や石の窪みのわすれ汐

鮎汲や喜撰が嶽に雲か ゝる

あだ花と聞ばけだかし梨のはな

紺かきが竹虎がくれや花林檎

菜の花や雲たち隔つ雨の山

菜の花の紀路見越すや山のきれ

春過て夏箕の川や藤のはな

咲て田中の松も見られけり

白藤や猶さかのぼる淵の鮎

行燈をとぼさず春を惜しみけり

行春や狸もすなる夜の宴

おこたりし返事かく日や弥生尽