和歌と俳句

上嶋鬼貫

遠里の麦や菜種や朝がすみ

雨だれや暁がたに帰る鴈

状見れば江戸も降りけり春の雨

猫の目のまだ昼過ぬ春日かな

樹の中に只青柳の尾長鳥

みどり立つきしの姫松めでたさよ

春草の姿持たる裾野かな

鳥はまだ口もほどけず初ざくら

から井戸へ飛そこなひしかな

一鍬や折敷にのせしすみれ草

春風や三保の松原清見寺

永き日を遊び暮たり大津馬

一の洲へ都の客と馬刀とりに

軒うらに去年の蚊うごく桃の花

杖ついた人は立ちけり梨子の花

かけまはる夢は焼野の風の音

富士は雪花一時のよしの山

骸骨のうへを粧て花見かな

摺鉢の花に賑ふ菴かな

花鳥に何うばはれて此うつつ

うたてなや桜を見れば咲にけり

去年も咲ことしも咲や桜の木

日よりよし牛は野に寝て山ざくら

谷水や石も哥よむ山ざくら

盛なる花にも絶ぬ念仏かな