和歌と俳句

釈迢空

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夜目しろく 萩が花散る道ふめば、かの子は 母の喪にゆきにけり

白玉をあやぶみ擁き 寝ざめして、春の朝けに、目うるめる子ら

このねぬる朝けの風のここちよき。寝おきの ほおあかみたる

ここちよき春のなざめのなつかしさ。片時をしみ、子らが遊べる

砂原に砂あび 腰をうづめゐつ。たはぶれの手を ふと 止めぬ。子ら

わが子らは 遊びほけたる目を過る何かおふとて、おほぼれてをり

わが雲雀 今日はおどけず。しかすがに つつましやかにふるまひにけり

くづれふす若きけものを なよ草の牀に見いでて、かなしみにけり

倦みつかれ わかきけものの寝むさぼる さまはわりなし。かすかにいびく

やせやせて、若きけものの わが前にほと息づきぬ。かなしからずや

すくすくと のびよよのほりゆく子らに、しづごころなき わがさかりかも

ニ三尺 藜のびてるくさむらの 秋をよろこびなく虫のあり

沓とれば、すあしにふるる砂原の しめりうれしみ、草ぬきてをり

わが病ひ ややこころよし。なにごとかしたやすからず やめる子のある

小鳥 小鳥 あたふた起ちぬ。かたらひのはてがたさびし。向日葵の照る

はるしや菊 心まどひぬゆらぐらし。瞳かがやく少年のむれ

かの子こそ われには似つつものはいへ 十年の悔いにしづむ目に来て

人の師となりて ふた月。やうやうに あらたまりゆく心 はかなし

わかやかに ここちはなやぎあるものを。さびしくなりぬ。子らを教へて

おろおろに 涙ごゑして来つる子よ。さはなわびそね。われもさびしき

いくたびか うたむとあぐる鞭のした、おぢかしこまる子を泣きにけり