和歌と俳句

柿本人麻呂歌集

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八千矛神自御世乏嬬人知尓来告思者

八千桙の神の御代よりともし妻人知りにけり継ぎてし思へば

吾等戀丹穂面今夕母可天漢原石枕巻

我が恋ふる丹のほの面わこよひもか天の川原に石枕まかむ

己嬬乏子等者竟津荒磯巻而寐君待難

己夫にともしき子らは泊てむ津の荒磯まきて寝む君待ちかてに

天地等別之時従自嬬然叙年而在金待吾者

天地と別れし時ゆ己が妻しかぞ離れてあり秋待つ我れは

孫星嘆須嬬事谷毛告尓叙来鶴見者苦弥

彦星は嘆かす妻に言だにも告げにぞ来つる見れば苦しみ

久方天印等水無川隔而置之神世之恨

ひさかたの天つしるしと水無し川隔てて置きし神代し恨めし

黒玉宵霧隠遠鞆妹傳速告与

ぬばたまの夜霧に隠り遠くとも妹が伝へは早く告げこそ

汝戀妹命者飽足尓袖振所見都及雲隠

汝が恋ふる妹の命は飽き足らに袖振る見えつ雲隠るまで


夕星毛往来天道及何時鹿仰而将待月人壮

夕星も通ふ天道をいつまでか仰ぎて待たむ月人壮士

天漢已向立而戀等尓事谷将告嬬言及者

天の川い向ひ立ちて恋しらに言だに告げむ妻どふまでは

水良玉五百都集乎解毛不見吾者年可太奴相日待尓

白玉の五百つ集ひを解きもみず我れは寝かてぬ逢はむ日待つに

天漢水陰草金風靡見者時来之

天の川水蔭草の秋風に靡かふ見れば時は来にけり

吾等待之白芽子開奴今谷毛尓寶比尓往奈越方人迩

我が待ちし秋萩咲きぬ今だにもにほひに行かな彼方人に

吾世子尓裏戀居者天漢夜船■動梶音所聞

我が背子にうら恋ひ居れば天の川夜舟漕ぐなる楫の音聞こゆ

真氣長戀心自白風妹音所聴紐解往名

ま日長く恋ふる心ゆ秋風に妹が音聞こゆ紐解き行かな