和歌と俳句

正岡子規

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くれなゐの 薄色匂ふ 薔薇の花を 折りて手にもち 香を嗅ぐ少女

美人問へば 鸚鵡答へず 鸚鵡問へば 美人答へず 春の日暮れぬ

鴛鴦の 袂重ねて 欄に倚る 玉の如き少年 花の如き少女

神知らぬ ほこらを祭る 庭の隅に 篠の群寒く 梅の花散る

山の池の 水際のおふる 篠の群の 死ぬとも君に 逢はんとぞ思ふ

なゆ竹の とをよる妹が 手を巻きて さねしこよひを とはにしぬばむ

あはの國の あはなく久に むつの國の むつたまあへる 君をこひけり

朝な夕な 字書きふみ讀む かたはらに 萌黄の鳥の 木にとまり居り

もろこしの からのみやげに もらひたる こき紫の 月形團扇

フランスの 人がつくりし ビードロの 一輪ざしに 椿ふさはず

ある時は ひゝなを祭り ある時は 花瓶を置く 眞黒小机

なにがしの 佐兵衛が鑄たる 霰釜の 箱書きしたる 山城屋市兵衛

から酒に 蟹ひてありし 澁色の 低き小瓶に 梅を活けたり

つり籠の 鶉取らんと 飛びかゝる あなにく小猫 棒くらはせん

カナリヤの つがひは逃げし とやの内に 鶸のつがひを 飼へど子生まず

いのしへの からの瓦に 彫りきとふ 文字をうつしゝ 茶托四五枚

からかねの 茶托のかたに 鑄いだしゝ 落花水面 皆文章の句意