和歌と俳句

正岡子規

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明の人 陳元贇が 傳へたる 尾張の守の お庭焼のもひ

すゑ物の 釜を開けば 百あまり 並びて立てる 女人形

古き世に からより渡り 来しといふ 瓶の價の たふときろかも

價なき 十ひらの皿の 一ひらを 命なりける 皿物語

浅草の 今戸すゑ物 つたなけれど 西行もつくる ゐのししもつくる

秀吉は こまのいくさに うちかてず すゑ物つくり つれて歸りぬ

すゑものゝ 竈をきづき わらはべの おもちやつくりて 世を送らばや

ふたゝびの 七日御墓に 詣づれば 水仙しをれ 茶碗われたり

ぬばたまの 黒き小瓶に 梅いけて 病の牀に 春立ちにけり

いたつきの 枕辺近く 梅いけて 畳にちりし 花も掃はず

月てらす 梅の木の間に たたずめば わが衣手の 上に影あり

初春の 朧月夜を なつかしみ 折らんとしたる 道の辺の梅

ぬばたまの 闇に梅が香 聞え来て 躬恒が歌に 似たる夜半かも

鎖したる 園の外面の 薄月夜 梅の林を 見て過ぎにけり

墨さびし 墨絵の竹の 茂り葉の 垂葉の下に 梅いけにけり

椽側に 置きし小瓶に 花賣が いけてくれたる まばら白梅

瓶にさす 梅はちれゝど 庭にある 梅の木咲かず 風寒みかも

草の戸に まつる阿弥陀の 御佛に 薄紅の 梅奉る

とほつみおや すめらみ神が 御位に 即かす日かしこみ 梅いけにけり

日の本の 國のはじめを 思ひいでて 其日忘れず 梅咲きにけり

野の本の 國の祭と 賤が家の 梅さく門に 旗たてよろこぶ

文つづる 机の上に 梅いけて この日をいはふ 日本新聞社

新聞は 梅の詩に畫に 文に歌に いづれのページも 梅なきはあらず