鄙にては ぎをんぼといふ 都にて 蜂屋ともいふ 柿の王これ
あぢはひを 何にたとへん 形さへ 濃き紅の 玉の如き柿
新しき 庭なつかしみ 足なへの われ人の背に 負はれつつ来ぬ
君と我 二人かたらふ 窓の外の もみぢの梢 横日さす也
松を植ゑ 楓を移し 新室の 庭のたくみは 今成りにけり
新室に 歌よみをれば 棟近く 雁がね啼きて 茶は冷えにけり
松楓 晝しづかなる 庭の奥に こは清元の 三味の音聞ゆ
銀泥の さびてかがやく 三日月の 古畫の下に 菊只二輪
わせ酒の うま酒に酔ふ 金時の 大盃と いふ楓かも
水茎の ふりにし筆の 跡見れば いにしへ人は 善く書きにけり
新しき 庭の草木の 冬ざれて 水盤の水に 埃うきけり
牛を割き 葱を煮あつき もてなしを 喜び居ると 妻の君にいへ
我口を 觸れし器は 湯をかけて 灰すりつけて みがきたぶべし
吹きたまる 木の葉の上に 山茶花の 花ちりこぼれ しぐれふるなり
ひとりこゆる 裾野が原の 小石道 駒かいすくみ 風しぐれ来ぬ
夜を深み 戀の遠道 犬吠えて 時雨からかさ 袂ぬれけり
折りてかざす 紅葉の枝に 雫して しぐれの雨は 猶霽れずけり
佛立つ 道のべ柳 落葉して 供へし菊に 時雨ふるなり
萩枯るる 小庭は荒れて 檐端なる 籠の鶉に 時雨ふるなり
吉原に つづく大路を 見渡せば 月明らかに 熊手なみくも
提灯の 山なす町を 行き過ぎて 上野の森は 暗く淋しき
にぎはひの 大路をはさむ 高殿の 二階三階 灯山の如し
色厚く 繪の具塗りたる 油畫の 空気ある畫を われはよろこぶ