和歌と俳句

正岡子規

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いたつきの 閨のガラス戸 影透きて 小松の枝に 雀飛ぶ見ゆ

病みこやす 閨のガラスの 窓の内に 冬の日さして さち草咲きぬ

朝な夕な ガラスの窓に よこたはる 上野の森は 見れど飽かぬかも

冬ごもる 病の床の ガラス戸の 曇りぬぐへば 足袋干せる見ゆ

ビードロの ガラス戸すかし 向ひ家の 棟の薺の 花咲ける見ゆ

雪見んと 思ひし窓の ガラス張 ガラス曇りて 雪見えずけり

窓の外の 蟲さへ見ゆる ビードロの ガラスの板は 神業なるらし

病みこもる ガラスの窓の 窓の外の 物干竿に 鴉なく見ゆ

物干に 来居る鴉は ガラス戸の 内に文書く 我見て鳴くか

常伏に 伏せる足なへ わがために ガラス戸張りし 人よさちあれ

ビードロの 駕をつくりて 雪つもる 白銀の野を 行かんとぞ思ふ

ガラス張りて 雪待ち居れば あるあした 雪ふりしきて 木につもる見ゆ

暁の 外の雪見んと 人をして 窓のガラスの 露拭はしむ

暁の 鴛鴦の小衾 静かにて 閨の外面は 雪積りけり

鉢に植ゑし ことぶき草の さち草の 花を埋めて 雪ふりにけり

朝日さす 森の下道 我が行けば ほつ枝下枝の 雪落つる音

朝な夕な ガラス戸の外に 紙鳶見えて 此頃風の 東吹くなり

飼ひおきし 鳥を放てば あら悲し 黒き鴉が 取りていにけり

冬ごもる 几の上の 梅の花 此頃散りて 春立ちにけり

いにしへの かしこき人は ゐの子飼ひて ゐの子の子賣りて 富を得にけり

砥部焼の 乳の色なす 花瓶に 梅と椿と 共に活けたり

青畳 四枚半の 庵建てて 薄茶一椀 椿一輪

下野の 那須の與一が 放つ矢に 扇散り浮く 春の浦波