和歌と俳句

正岡子規

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玉にあらず 魚の目にあらず いづれをか 玉と定めん 魚の目といはん

花の如く 眞玉の如き 詩のために をしけき君が 命なりけり

起きて泣かば 心やる方も ありぬべし 伏して泣く身を あはれと思へ

武蔵野の 豊島の岡を よき岡と 造りたまへる 大宮處

玉佩ぶる つかさ人等は 大宮の 御庭の霜に 簀薦しくらん

御庭邊の 簀薦の上に 國内四方を をろがみますと 聞けばかしこし

あら玉の 年のはじめの はれのみけを たてまつるらん 大みけどころ

十萬の もろもろをゐて いでましゝ 大御軍の かたみゆゝしも

八百ひだの 大みもすその 長裾を 手にさゝげ持つ 公達や誰

九重の 二重の御橋 とどろかし 玉の車の 先づ渡るらし

馬ほこる 玉の車を 指さして 一の人ぞと 人のいふなり

わが國の おほきいさをと となへつる 大臣の鬚に 霜置きにけり

丸の内の 往来安けみ はれ衣 袂にさはる 石垣もなし

百萬の いらか見下し 龍のごと 車行くらん 雲のかけ橋

君が御手に 鷹うち据ゑて 狩に行く 昔思へば 我をいたましむ

狩人の 銃の音響く 武蔵野は いくさの中に あるかとぞ思ふ

狩人の 銃の音絶えて 初日さす 田中の森に 鳥相ことほぐ

野の川を 踏み行く鶴は 薄氷の 砕けし穴に 泥鰌をついばむ

あら玉の 年のはじめに 川に住む 鰭の狭物を をしてさちはふ

君が代の 流れ久しき 古川に 泥鰌の種の 盡くる時しらに

鳥ならば 天翔るべし 亀の身の 泥に尾を引く 御世をよろこぶ