和歌と俳句

正岡子規

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ふらんすの ぱりに行く繪師 送らんと 畫をかきにけり 牛くひにけり

くちなしの 園の主に 君あはば 竹の里人 よろしくと申せ

上野山 日くれて虎の 吼ゆるなり 虎かひ人や 餌を忘れけん

上野山 夕こえ来れば 森暗み けだもの吠ゆる けだものの園

鏡なす ガラス張窓 影透きて 上野の森に 雪つもる見ゆ

うつせみの ひつぎを送る 人絶えて 谷中の森に 日は傾きぬ

谷中路の 森の下闇 我行けば 花うづたかき うま人の墓

山のべの 森の下道 日は暮れて 逢ふ人をなみ いそぎて行きぬ

遠く来て かへり見すれば 猶見ゆる 谷中の岡の 森の上の塔

花に来て 遊びし今日の 日もくれて 鴉鳴くなり 権現の森

いにしへの 黄金の殿の 残りたる 二荒山の 杉のむら立

おほやけの 國の林と 百年の 斧も入れざる 木曾の奥山

森深み 山鳥啼きて たまたまに 人に逢ふさへ 淋しかりけり

分れたる 森の小道に 彳みて 人も来るやと ひとり待ちけり

わが上る 愛宕の森の 梢より はるかに見ゆる 蜑のつり舟

義仲が 兎を狩りて 遊びけん 木曾の深山は 檜生ひたり

とみ山の 森の木陰の 古寺に 松島見んと 我も訪ひ来し

森こえて 隣の村へ 歸るちふ 車に逢ひて ねぎりて乗りぬ

杉むらに 白き幟の ほの見えて 天狗を祭る 社ありけり

楢の實を ひろひに行けば 楢林 蓆圍ひて かたゐ住みけり