和歌と俳句

加賀千代女

たたむには団扇残りて夕涼

どちからも中につたうや橋すずみ

影ばうや我とはづれて夕すずみ

影坊の森ではぐるる涼みかな

松の葉に心とらるるすずみかな

水影のもろもろ涼し夏の月

釣竿の糸にさはるや夏の月

蓋とりてつめたきかさや氷餅

せみの音やからはその根に有ながら

初蝉はどの木ともなし聞ばかり

初蝉や松の雫も絶えし時

松風もをのがのにして蝉の声

滝の音も細るや峰に蝉の声

滝の糸ほそふなる時せみの声

照もよしふるも夏野の道すがら

身にまとふものとはみえず綿の花

しののめをしのび夕がほの夜終

ゆふがほの宿や茶の香も水くさき

ゆふがおや物のかくれてうつくしき

夕顔や午さへ白ふ見ゆる頃

白しもとより水は澄まねども

散ば咲ちればさきして百日紅

明日もあるに百日紅の暮れをしみ

なでしこや横にふとるも育ちより

かなしからんその夏の日のゆきあたり