北原白秋

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高山の 雪の秀つづき 消え消えと 行き行かしむ 役の小角は

雪ふれば 御嶽精進も えは行かぬ 凄まじき冬と 今はなりにけり

足曳の 山の猟男が 火縄銃 取りて出で向ふ 冬は来にけり

高山の 雪に火縄の 火の消なと 拝み希ひのるは 愛し妻ばかり

雪空に 澄みつつ白き 山ふたつ その谷間の 火縄銃の音

寂しさに 堪へて眺むる 白雪の ほのぼのとして 山家なりけり

奥山の 山の狭間に ふる雪の ほのぼのつもり 夜明けぬるかも

白き尾の 白き鶏 あらはれて 天上の雪に 長鳴きにけり

茶の聖 千の利休に あらねども 煙のごとく 消なむとぞ思ふ

茶の煙 幽かなれども 現身の 朝餐の料に 立てし茶の煙

茶の煙 消なば消ぬべし しまらくを たぎる湯玉の 澄みて冴えたる

茶の煙 幽かなれかかし 幽かなる 煙なれども 目に染みるもの

碧山の 竹に雀の 軸一つ 掛けてながむる 人にもらひて

碧山の 竹に雀の 軸一つ 掛けてながむる 何も持たねば

碧山の 竹に雀の 絵を見れば 竹に雀が 遊べるらしも

碧山の 竹に雀の 破れ掛軸 竹も雀も むしくひにけり

刷毛うすく 引きて小鳥を ぽつぽつと 描けば霞に 遊べるらしも

酒のまぬ 人はまどから 顔だして 寂しく四方の 雲眺めます

和歌と俳句