北原白秋

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ひしひしと 立てつらねたり 真直の竹 その尖に寒し まだ春の空は

竹屋の空 春は浅みか 一羽の鳥 さむざむと翔ろ 竹の尖の上を

こまごまと 立てかくる竹 白木蓮の 上に突き抜け 陽にかがやきぬ

竹屋の路次 今朝もさむみか 竝竹に 手触れつつ行く 子供が一人

睡眠さめて おのづと目あく たまゆらは 蓮花声して 開くかに思ふ

睡眠さめて おのづとひらく 朝の目に 空青く晴れて 木のそよぐ見ゆ

蒼空見え 早やも子どもの 声すなり 美くしき春の 今朝の目ざめに

目はひらけど 朱墨つきたる 掌など しみじみと見つつ 起きむともせず

空円く 光あかるし 病鶏 やまずなやめば 安けからぬを

病鶏 かぐろひなやむ 日のさかり 榧の木の梢は すこし風あり

春深し 今日の火葬場に 立つ煙 なみなみならず 美しけれど

ちさの木に 雀が三びき 飛んで来て なかの一羽が ころげけるかな

春永うして いたづらに吹く 微風に 垂尾の雉子 あらはれにけり

道のべに 雉子あらはれ 美しき 尾を曳き過ぎる 春ふけにけり

和歌と俳句