反高の 青かまきりを 打つべくは 一撃にして その斧ともに
蟷螂の はらわた頼め すぢ黒き 針金虫の 生くらくあはれ
大き木の 鬱然たるは 然ありて その雲吐けり 年を経にける
日の透り 影と乱るる 秋ざくら よく見て来むぞ 庭つきぬけて
庭なべて 落葉のみなる ありやうを この凪の陽に 思ひみるべし
夕光の 諸葉かがよふ 黄の銀杏 わが腰掛は 庭に置きたる
眼にうとく 我がつきそれし 風船は 童が地より さらひて逃げぬ
鉛筆の 一二本ゆゑに 我れがちと 子らひた競ふ あの駈けざまや
額髪の 幼なかりにし 俤は 五十歳過ぎて その亡きあとも
玉蘭は 黄葉乾びし 落ちはてて 庭のはひりの 音ひびきけり
夕かげは ここだをぐらき 我が眼にも 楓の紅葉 火照するなり
日おもてに 黄葉はららく 声するは 日陰の雑木 風か吹き越す
背戸わきを 我が蹴つまづく バケツには 落葉かきため あかつきの霜
おのがじし 華は咲かせて ゆたかなる み園のあるじ 今よき老に
我が園と 眺め足らはす 竹柏の園 牡丹の花も 咲きて明るき
五百あまり 華の慶 積みまして なほかがやかし み園は久に
女の童 篁子が削る 鉛筆に 朱き粉の飛び 短日いまは
灯のもとに 篁子がすなる 英習字 菊さし寄せて その父われは
髪揺りて 父に笑み寄る 夜の寝ぎは 手のつめたきは 少女ゆゑにぞ