北原白秋

17 18 19 20 21 22 23 24 25 26

建御雷 響きわたらし 夏雲や すでに向伏す 下つ国原

大船の 香取の海に 潮とよみ 弓弭輝りわたらす 経津主の神

ひもろぎ 香取の山は 鷺多に 梢とよめり 清の明りを

荒み魂 しかも和すと 明らけし 遠つ祖先は 討ちに討たしき

神とある 弓矢のまこと うやうやし ひとたび立ちて たぢろがめやも

剣執り 闘ふかぎり 斎庭なり 塵だにとめじ 朝潔めつつ

陣貝は 裃正し 高々と 両手持ちにぞ 吹きあげにけれ

陣貝の 法螺貝聴けば 武者押しに 今ぞ押しゆく 昧爽の空

音に止む 陣の法螺貝 緋ぶさ垂り しづけかるかも 吹きをさめける

真竹を 立身の居合 抜く手見せず すぱりずんとぞ 切りはなちける

見たりけり 斎庭に立つる 青竹の 試し切りこそ うべな一と太刀

弓構や 差矢前型 いざとこそ 片折り敷きぬ 物見正しく

矢を番へ 物見安らぐ 跼の よに落居たる 姿よく見む

物見しばし ゆづかしづもる 際ありて きりり引きしぼる 張りのよろしさ

姿なり 構正しく 張る弓の 矢と一つなる 心澄みつつ

引く弓は いよよ張り詰め 一筋や 眼先の鏃 ゆづかまで引く

満を持して まさに射はなす たまゆらは 幽けかるらし ゆがけふるへつ

詰いよよ 張りて堪へたる 右手の肱 矢頃はよろし ひようとはなしつ

射てはなし 見入る我かの しばらくは 楽しきがごとし いまだ名残に

矢をはなし くるりと返る 弓返りの ゆづかよろしも 君が押手に

的はいざ 神明らに 引く弓の 矢は音たてつ 徹りたらしも

和歌と俳句