北原白秋

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天龍の 水上清み 雪祭る 族が鬼は よに遊びける

うら歎く 父母の子は 風花の 消ぬかに散らふ 和ぎにかも行く

天城 雪の鎮めと 伊豆びとは 何をもて遊ぶ 歌をもて遊ぶ

神遊び 忘るるきはよ 鬼の子が ひたぶるに笑らぐ 命とをあれ

茶をわびと 和敬きよらに 常ありて そのおのづから 坐りたまひき

池の面に 匂へる影を 雲ぞとは 知らで過ぎしか 今は見さだむ

池水に 映る繊雲 あふぎみて 霞むのみなる あはれ白雲

十方射光 霞むのみなる 浮雲の まうへ照りつつ 春なるかなや

眼にとめて 月のをさなさ いふこゑは まかる人らし 門の夜寒に

月暦 睦月二日の 新月の 眉をさなかる 西に見ゆとふ

白辛夷 花さく枝に とまりたる 頬白見れば 春冴えにけり

春雷の 行かそけなる 夜なりけり 寒餅の水 雫切らしむ

うち霞む 三階松の 空にして 尾長は喚ぶか その尾ひらめく

春山の 松に群れ来る 尾の長き 空いろ鳥と いふがめでたし

ひらきかけて 黄にぞこごれる 玉蘭は 時ならぬ寒波 昨夜かいたりし

その母の 子らかきおこす 声きけば 白木蓮の咲きて 夜明ちかきか

玉蘭の 花咲きてより 来る鳥の 尾長・鷽・鶲・雀 みなあはれ

玉蘭の 下照る土に 歩めるは 野の小綬鶏か 長閑になり来し

蝶の飛ぶ春なるかなと見てをるを小鳥ぞといふ微笑尽きず

春日照る庭の芝生を鶏じもの我は掻きをり白けたる芝

冬旱長かるあひだ乾び来し雑の落葉もはららき失せぬ

うち見には枯山芝生春日照りねもごろ聞けば濃すみれ咲きぬ

吾が犬の呆けてあくなきい寝ざまにうらら春日の照りこそなごめ

成城十九番地月まどかなる春夕の暮れつつはありて明りつつあり

花ひとつ枝にとどめぬ玉蘭の夏むかふなり我も移らむ

和歌と俳句