和歌と俳句

齋藤茂吉

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白樺の 太樹ならびて 立つ見れば 露西亜人等が 植ゑたるならし

午後九時ごろ 西海岸に ちかづきて 高山つづき ただに黒々し

樺太の 真岡の町に 目につきし 「凱旋どんぶり」とそして「謎の鍋」

盆をどり ありしと聞けど 旅づかれ 海岸通までも行かずも

とある街の 角に来し時 むくむくと 朝井の水が あふれて居たり

日のいづる 前に来れば 中学生小学生もまじり 海の魚釣る

浜べより 見あぐる丘に 家並たち 異国らしき おもかげもあり

天つ日は 裏の山より いでつつあり 忽ちにして 海を照らせり

すかんぽなども交じりて 樺太の 港の岸に 青くさ生ひぬ

真岡の浜の 鯡干場を もとほりて 旅遠く来しと おもほえなくに

発動船 今いでゆけり 沖合に 船をならべて 魚つるらしも

船はつる 港はそれて 突堤に 近く山ほどの 昆布乾したり

この町の 裏山つづき 立派なる 建物あり 中学校などもよし

まもり来し わがまぼろしは 無くなりつ 樺太のやま 火に燃えしかば

心の歎き などいふことの 度を越えぬ 山に燃えたる 火のあとを見て

かすみつつ 高山の見ゆ 原始林 しげりてゐたる ころしおもほゆ

汽車中の話 樺太神社 旧市街 農場 ロシア人墓地 山火事

鈴谷山 鈴谷川とふ 山河の 名さへいつしか 云ひ馴るるらし

町ゆきて 貝の化石の 佳き見れば 皆たわやめの ものにぞありし

豊原に ひと夜を寐たり 庭に降る 雨見てをれば 京都あたりにゐるごとし