和歌と俳句

齋藤茂吉

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朝日岳 十勝岳見ゆ みんなみに 石狩岳は かた寄りにけり

アイヌ語の チヤシは土壁の 意味にして 闘のあと 残りけるかも

アイヌ等の はげしき戦闘の あとどころ 環状石は 山のうへに見ゆ

たけ樺 いちゐとど松 蝦夷松の 樹むらを見つつ 山に入りゆく

とりかぶとの 花咲くそばを 通りつつ アイヌ毒矢の ことを言ひつつ

蜥蜴いでて 赤蜻蛉くふ さまを見つ 互に生くる もののかなしさ

病兵が ここに来りて しづかなる 山の朝よひを 歩みつつ居り

みなもとは かかるすがしさ たひらなる 小谷にあふれ みづは湧きたり

ふりし木に 生ひたる苔を やさしみと 手にとり見つる 山はふかしも

山がはに 倒れおちいりし とど松に になわ逆まき 身に沁みにけり

山がはは きのふもけふも 濁らねど ゆたけく岸の 木賊ひたせり

波だちて 瀬々のつづける 山がはに 砂たむろせる 浅岸あはれ

山がはの みづの荒浪 みるときは なかに生くらむ 魚しおもほゆ

ひとところ 谷あかるきに そそりたつや 巌のやまを けふ見つるかも

山がはの 音をしきけば 底ひより 鳴りくるごとし 山がはのおと

黒巌に 水しみづるを 見たりけり 人のくるしき こころ絶えつつ

とど松の 木下やみより いでくれば おもく聞こゆる 水上のおと

山がはに 倒れたりける 太樹々が 浪をかぶるを 見つつゆきけり

海に入る 石狩川の みなかみは かかるはざまを ながれたるはや

いつしかに 谿みづほそく なりゆけど 木の下やみに しぶきあがれり

宋人が さびしみしごと 山のうへより 音の聞こゆる 滝見つつをり

ゆふぐれの 道をいそぎぬ 谿のそら 北へひらきて 黄のくものいろ