一葉
つまごひのきゞすの鳴く音鹿の声こゝもうき世のさがの奥なり
烏帽子着た人も見ゆるや嵯峨の花 子規
鉄幹
竹に染めし人の絵の具はうすかりき嵯峨の入日はさて寒かりき
晶子
明くる夜の河はばひろき嵯峨の欄きぬ水色の二人の夏よ
晶子
夕ぐれを花にかくるる小狐のにこ毛にひびく北嵯峨の鐘
晶子
うながされし嵯峨はゆふべの水のさと兄訪ふ人にちひさう添ひぬ
晶子
塔見えて橋の半はかすむ嵯峨少人具して鮎くむ日かな
晶子
木がくれし嵯峨の小みちを一人行くわが髪の香もなつかしみつつ
藪寺に餘花や見えける嵯峨野かな 蛇笏
秋雨や汽車藪を出て嵯峨の駅 泊雲
秋晴の嵯峨の藪裾通りけり 泊雲
嵯峨の駅納涼電車来てはかへす 誓子
東京へ行きも帰へりも嵯峨は雪 泊雲
曼殊沙華かなしきさまも京の郊 友二
青竹に埋れんとして嵯峨に入る 知世子
嵯峨の道蜥蜴は失せてわが残る 三鬼
嵯峨日記このかた嵯峨は夜の長さ 青畝