よみ人しらず
光まつ露に心をおける身は消えかへりつつ世をぞ恨むる
よみ人しらず
潮みたぬうみときけばや世とともにみるめなくして年のへぬらん
桂親王
唐衣きて帰りにし小夜すがらあはれと思ふを恨むらんはた
紀乳母
影だにも見えずなりゆく山の井は浅きより又水やたえにし
返し 平定文
浅してふ事をゆゆしみ山の井はほりし濁に影は見えぬぞ
よみ人しらず
いくたびか生田の浦に立帰り浪にわが身を打ち濡らすらん
返し よみ人しらず
立帰り濡れてはひぬる潮なれば生田の浦のさかとこそ見れ
よみ人しらず
逢ふ事はいとど雲井の大空にたつ名のみしてやみぬばかりか
返し よみ人しらず
よそなからやまんともせず逢ふ事は今こそ雲のたえまなるらめ
よみ人しらず
今のみと頼むなれども白雲のたえまはいつかあらんとすらん
よみ人しらず
をやみせず雨さへふれば沢水のまさるらんとも思ほゆるかな
よみ人しらず
夢にだに見る事ぞなき年をへて心のとがに寝る夜なければ
よみ人しらず
見そめずてあらましものを唐衣たつ名のみしてきるよなきかな
よみ人しらず
枯れはつる花の心はつらからで時すぎにける身をぞ恨むる
返し よみ人しらず
あだにこそ散るとみるらめ君にみなうつろひにたる花の心を
よみ人しらず
来むといひし月日を過ぐす姨捨の山のはつらき物にぞありける
返し よみ人しらず
月日をも數へけるかな君こふる數をもしらぬわが身なになり
よみ人しらず
このめはる春の山田を打返し思ひやみにし人ぞ恋ひしき
贈太政大臣時平
ころをへて逢ひ見ぬ時は白玉の涙も春は色まさりけり
返し 伊勢
人こふる涙は春ぞぬるみけるたえぬ思ひのわかすなるべし