中将更衣
けふ過ぎば死なましものを夢にてもいづこを墓と君がとはまし
御返し 延喜御製
うつつにぞとふべかりける夢とのみ迷ひし程やはるけかりけむ
藤原千かぬ
流れては行く方もなし涙河わが身のうらや限りなるらむ
在原棟梁
わが恋の數にしとらば白妙の濱の真砂も尽きぬべらなり
貫之
涙にも思ひの消ゆる物ならばいとかく胸は焦がさざらまし
是則
しるしなき思ひやなぞと葦鶴の音に鳴くまでに逢はずわびしき
貫之
玉の緒の絶えて短き命もて年月ながき恋もするかな
平定文
我のみや燃えて消えなん世とともに思ひもならぬ富士のねのごと
返し 紀乳母
富士のねの燃えわたるともいかがせむ消ちこそしらね水ならぬ身は
貫之
わびわたるわが身は露をおなじくは君が垣根の草に消えなむ
在原元方
みるめかる渚やいづこあふこなみ立ちよる方も知らぬわが身は
藤原滋幹
なるとよりさしいだされし舟よりも我ぞよるべもなき心地せし
よみ人しらず
高砂の峰の白雲かかりける人の心をたのみけるかな
延喜御製
よそにのみ松ははかなき住の江のゆきてさへこそ見まくほしけれ
源等朝臣
かげろふに見しばかりにや濱千鳥ゆくへもしらぬ恋にまどはむ
藤原兼茂朝臣
わたつみのそこのありかは知りながら潜きて入らむ浪の間ぞなき
橘実利朝臣
つらしとも思ひぞはてぬ涙河流れて人をたのむ心は
返し よみ人しらず
流れてと何たのむらむ涙河影見ゆべくもおもほえなくに
平定文
何事を今はたのまむちはやふる神もたすけぬわが身なりけり
返し おほつふね
ちはやふる神もみみこそなれぬらしさまざま祈る年もへぬれば
貫之
怨みても身こそつらけれ唐衣きていたづらにかへすとおもへば