木下利玄

落葉樹葉落つる前の黄いろなる森のあかるみわれらよこぎる

枝はなれ枯葉ただよひ木のもとの大地につきぬなつかしうかな

男體の山のくづれのあらはなる土に夕日のさせるあはれさ

男體のうへの青空しろき雲山の秋の日おだやかに暮る

山上の温泉の湧く村の十月の夜の灯にせまる寒き山の気

山の温泉の古旅籠屋の障子のみしろく目に入る朝のさみしさ

空の藍山の黄色のくつきりとかたみにせめぎ秋晴れに立つ

白樺の白き木肌に手をふれて眼を見ひらきぬ秋風をきく

落葉ふむ足をとどめてたたずめば沈黙ひろがるまた歩み行く

葉も花もすがれ果てたる秋草のなほ立てるあり山の道ばた

石楠木が蕾の用意早なりて山ふところの日だまりに立つ

大いなる斜面に秋の日を受けて男體山の夕ぐれに立つ

男體の樅に紅葉に午後の日の弱まりて行く暮のしづけさ

日光の宿のおばしま軒ちかく山高まれるなつかしきかな

日光を二時間の後われ等去るおもひさびしみ御霊廟を出づ

日光は次第に遠み過ぎ去れる旅のかなしさ野ずゑ汽車行く

明治屋のクリスマス飾り灯ともりてきらびやかなり粉雪降り出づ

きげんよくあそびてゐしが女の子たふれころびぬかたき大地に

冬の日は壁と地面の直角に来りたまれりそれがよろしき

目に白く雪の見えつつ冬くればいよよしたしき軒ちかき山

村だけの心をつくし祭禮する人たちの上に秋空くもる

うきうきと屋臺の上に神楽せし人等いぢらし雨降りいでぬ

ささやかなる八兵衛稲荷の祭禮の二日目の今日も雨が降るなり

菊の中うす黄の菊と咲き出づるこの草の上もよそにはおもはず

庭見れば土にしみ入りしみ入りて冷え冷え雨の降り出でしかな

和歌と俳句