木下利玄

根ざす地の温みを感じいちはやく空いろ花咲けりみちばた日なたに

冴えかへり雪ふるなべにみちばたの空いろ花は一日とぢたり

ロベリヤの紫いろがしつかりとその位置占めて咲けるくもり日

雨くらき向ひの繁山高處にて木ぬれに白きは朴の花かも

雨そそぐ青葉の内部の枝にかかりて咲ける蔓の白花

高山のいたやもみぢのかさなれる枝葉仰ぐも根の土ふみて

高原に夕日そそげりうちわたすくさ山かげの尾花しろしも

街をゆき子供の傍を通る時蜜柑の香せり冬がまた来る

寂光院の尼の頬あかき午后にして日は照り雨の粉ちりにけり

掘割の低き堤ゆき冬の宵の心なごみぬ初卯の帰り

雑木山落葉しつこくこの頃の冬日に光るは椿と青木

青木の実赤くなりたり冬さりてかわききりたる山の斜面に

裏山の冬木にそそぐさむ時雨見てゐる程にいやさびしもよ

高麗山の松の梢ののどやかにうすかすみせり日は海上に

行きずりの小松が中に鳴きうつる鵯見いでてひそかにあらむ

冬山の日なたにをれば木をこれる音こころよく峡にとよめり

せせらぎの朽木越ゆるにふくらまり水の面のしわみふるへてゐるも

草山の低き雑木が新芽ふく枝のさきさきいのちかへり来

新道の道はばひろみやまざくらほのじろみつつ暮れがてぬかも

春山の雑木の花の黄いろきを見あげてわれはふもとゆくかも

照りとどまる春の日輪庭の奥に緋木瓜の花が熱に倦める

枳殻のかたくかぐろき棘の根に黄いろの芽あり春たけにけり

往来の日ざしをつよみおちちれる紙片まぶし夏ならんとす

足たゆく床几にをれば水茶屋の葵の花に日照雨かかるも

山独活の花うかび見ゆふかふかとふもと萱原遠ひろき上

和歌と俳句