和歌と俳句

正岡子規

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白布に 鮎子さばしる 玉川の 玉の如き君 忘らえなくに

晝暗き 森の下道 たまたまに 赤き椿の 花を見るかな

春たくる 此川上に 誰住みて 落花流水 椀浮み去る

野の末の 山には残る 雪もなし 芹流れこす 春の川水

若菜摘む 裾わの田居の 古川に 鶴脛ぬれて 春の水満つ

御園生の 花の露散る 春の水 内濠に落ちて 外濠に出つ

大なる 桃の實流れ 来しといふ 昔話の 春の川水

解けそむる 野川の春の 水浅み 泥鰌隠れつ 古草の根に

川上は 染物洗ふ 水寒し 白魚遊ぶ 春の川口

さしくだす 棹を短み 筏師の 拳をひたす 春の川水

春の水 小草かくれに 流れいでて ありとある澤を ひたしぬるかな

三層の 楼に上れば 國廣し 春風春水 東より来る

一枝の 櫻を瓶に さしておけば 硯の水に 花ぞ散りける

巣ながらに 取りおろされて 飛びもえず 悲しげに鳴く 雀の子あはれ

古園の 松に巣をくふ 鶴の親の 夜をこめて鳴く 雨かふるらし

六つの寺に 詣づる頃と なりにけり 巣を掃き清め 燕待つ家

飛びもあへず 又立戻り 木の末に 鷲ぞかかなく 巣もやあるらん

生ひたたば 取らんと思ひし 雀の子 きのふや立ちし 巣はからにして

鳩の巣に 鳩こそそだて 鶯の 巣にそだつてふ 時鳥かな

いくさ過ぎて 人なき村を 来て見れば 鵲すくふ 道のべの木に