和歌と俳句

正岡子規

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剣に倚て ふりさけ見れば 西の方に 稲妻すなり 風吹かんとす

墓原の 梅吹き散らす 夕風に 柩を送る 笛の音ぞする

かしこしや 賤が伏家の 内裏雛 御酒奉る 餅たてまつる

七人の 娘持ちたる 賤が家の すくなく 桃の花も無し

京の雛 江戸の雛と 並べおきて いづれこひしき 桃の下陰

売れ残る 雛やものを 思ふらん 十軒店の 春の夜の雨

徳川の 昔女の 住む宿に おびただしく祭る 古ひひなかな

草の戸に 娘も持たぬ 古妻が 心ばかりの 雛祭しつ

太鼓打つ 雛は桃にぞ 隠れける 笛吹雛に 櫻散るなり

表近く 雛祭る家の 門口に 順禮の子の 奉捨乞ひて立つ

櫻白く 桃紅の 垣つづき 同姓の家に 雛祭るなり

思ひいでて 妹がり行けば 雛祭 白酒に酔ひて 桃の花を折る

女の童が 酒酌む桃の 宴はてて 日は斜なり 海棠のはな

遠近の 桃咲きにけり 田舎家は 草餅搗きて 雛祭るらし

東京は 春まだ寒き 雛祭 梅のさかりに 桃の花を売る

うなゐ子が 雛横ざまに かい抱き おのれ母ぞと いふが愛らし

いそのかみ 古き都に 来て見れば 雛祭りの 様ぞかはれる

公を 退りて人の 委蛇委蛇たり 庭木の柳 風吹きわたる

大道の 賣卜先生 冬枯れて きのふもけふも よる人のなき

釘打ちし 恨みや長く 残るらん 夜な夜な杉の 泣くと人のいふ