北原白秋

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かきわくる ひと足ごとに 竜胆の 光りまたたく 冬のあさあけ

犬連れて ゆけばかはゆき 小笹原 そこにも竜胆 ここにも竜胆

そこにもここにも あはれな小さい 竜胆が 咲いてゐる光つて またたいてゐる

犬の眼も 幽かに動く 竜胆の 花のいのちを 見守るらしも

竜胆を 久に凝視めし 眼を深く 心に向けつ そこにも竜胆

竜胆が 頭の中に 光るなり たつたひとつの 竜胆の花

麗々と 足を洗へば 竜胆の 光りこぼるる 心地こそすれ

相模のや 三浦三崎は 誰びとも 不尽を忘れて 仰がぬところ

相模のや 三浦三崎は 目の前に 城ヶ島とふ 島あるところ

相模のや 三浦三崎は 大まかに 恵美須三郎 鯛釣るところ

相模のや 三浦三崎は 蕪の絵を 湯屋の廂に 画けるところ

相模のや 三浦三崎は 屁の神を 赤き旗立て 祭れるところ

相模のや 三浦三崎は ありがたく 一年あまりも 吾が居しところ

相模のや 三浦三崎の 事思へば けふも涙の ながれながるる

和歌と俳句