北原白秋

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おほわだつみの まへにあそべる 幼などち 遊び足らずて けふも暮れにけり

赤き日に 彼ら無心に 遊べども 寂しかりけり 童があたま

大きなる 赤き日輪 海にあれど 汝が父いまだ 帰らざりけり

現身の 子ども喧嘩を してゐたり 一人打たれて 泣けばかなしも

泣きわめく 子らが手を引き 引きづりて その母帰る 西日に赤く

何事の 物のあはれを 感ずらむ 大海の前に 泣く童あり

大海の 前に投げ出されて 夕まぐれ 童子わがごとく よく泣けるかも

ものなべて 麗らならぬは なきものを なにか童の 涙こぼせる

まんまろな 朱の日輪 空にあり いまだいつくし 童があたま

この泣くは 仏の童子 泣くたびに あたまの髪が よく光るかも

鼕々と うねり来れども 麗らなる 波は童を とらへざりけり

麗らなれば 童は泣くなり ただ泣くなり 大海の前に 声も惜しまず

麗らかに 頭さらして その童 泣けばこの世が かなしくなるも

この庵に まこと佛の 坐すかと 思ふけはひに ふりいでぬ

冬青の葉に 雪のふりつむ 聲すなり あはれなるかも 冬青の青き葉

寂しさに 堪へて吾が聴く しら雪の 牡丹雪とぞ なりにけるかも

澄み入りて わが身ひとつに ふる雪の はては音こそ なかりけるかも

めづらかに 人のものゆふ 声ぞする 思ふに空も 明けたるならむ

煌々と 光さすかと ふと思ふ 法身仏と いつなりにけむ

見桃寺の 鶏長鳴けり はろばろと それにこたふるは いづこの鶏ぞ

和歌と俳句