北原白秋

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よくも青く 晴れし空かな 思ひきや 屋根のかなたに 涙おぼゆる

あかつきの 雪に寂しく きらめくは 木々に囀る 雀があたま

木の枝に 雀一列 ならびゐて ひとつびとつに ものいふあはれ

蘇鉄の葉 八方に開く この朝明 雪しみじみと 滲み滴りにけり

冬青の木も 雪をゆすれり 椎の木も 雪をゆすれり 寂しき朝明

魚さげて ものいふお作 冬青の木の 下にしまらく 輝きにけれ

ほそぼそと 雪後の煙 立つるめり 赤き煙突 屋根の煙突

今は雪 深くくづれて しとしとと 庫裡の酢甕に 滲み滴りにけり

生馬の 灸すゑどころ 見ゆるなり 光あまねき 野つ原の中

馬は馬頭観世音なり はろばろに 嘶き来れば 悲しきものを

馬の頭 をりをり光り 大人しく 灸すゑられて ありにけるかも

現身の 馬にて在せば 観世音 灸すゑられて ありにけるかも

生馬の 命かしこみ 旃陀羅が 火を点けむとす 空の高きに

あかあかと 灸押しすゆる 馬の腹 馬はたまらず 嘶きにけり

しみじみと 馬に灸を すうる時 馬かはゆしと 思ひけるかも

おのれまた 灸すゑられ あるごとし 馬のこころに いつになりけむ

詮ずれば 馬も仏の 身なれども 灸すゑられて 嘶けばかなしも

ひさかたの 天に雪ふり 不尽のやま けふ白妙と なりてけるかも

れいろうとして 天にくまなき ふじのやま けふしろたへと なりてけるかも

うちいでて 人の見たりけむ 不尽のやま けふ白妙と なりてけるかも

和歌と俳句