くれなゐの 鉛筆きりて たまゆらは 慎ましきかな われのこころの
をさな妻 をとめとなりて 幾百日 こよひも最早 眠りゐるらむ
寝ねがてに われ烟草すふ 烟草すふ 少女は最早 眠りゐるらむ
いま吾は 鉛筆をきる その少女 安心をして 眠りゐるらむ
我友は 蜜柑むきつつ しみじみと はや抱きねと いひにけらずや
けだものの 暖かさうな 寝すがた 思ひうかべて 獨り寝にけり
寒床に まろく縮まり うつらうつら 何時のまにかも 眠りゐるかな
水のべの 花の小花の 散りどころ 盲目になりて 抱かれて呉れよ
山腹の 木はらのなかへ 堅凝の かがよふ雪を 踏みのぼるなり
ゆらゆらと 空気を揺りて 伐られたり 斧の光れば 大木ひともと
斧ふりて 木を伐る側に 小夜床の 陰のかなしさ 歌ひてゐたり
雪の上を 行けるをみなは 堅飯と 赤子を背負ひ うたひて行けり
雪のべに 火がとろとろと 燃えぬれば 赤子は乳を のみそめにけり
杉の樹の 肌に寄れば あなかなし くれなゐの油 滲み出るかなや
はるばるも 来つれこころは 杉の樹の 紅の脂に 寄りてなげかふ
みちのくの 蔵王の山の やま腹に けだものと人と 生きにけるかも