和歌と俳句

齋藤茂吉

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新なる 大きいきほひに 入らむ日の この国民の 眼のかがやきよ

あらた代の 富とさかえの しるしとて 今こそなびけ 海のあかねは

年のはに 心をこめて おもふこと ものの流動の いや新しく

大きけき 年くれゆきて 更々に はじめの年の 天あけわたる

紀元二千六百年を ことほぎて 第一年の 年あたらしも

業房に こもりて眼 みはることも あな清々し 年あけわたる

この現を さげすむものは おのづから 理法なきに 同じからむぞ

ここにして 究めむとする 学をしも ささぐべき時 いたらざらめや

あかときの 男女の こぞりたる 網引のこゑは 海の幸呼ぶ

天地の 目ざめむとする 時にしも はやもおこれる 海人の呼びごゑ

この浜に 茜の雲の 棚びくを 幾代か見つつ けふ新なり

もろともに 朝のこゑあぐる 汀には 今こそ踊れ 大魚小魚

朝日子を 真面に受けて 入りつ船 海の幸 あふるるばかり

あけぼのの 色にそまらむ 潮浪 永久のひびきを 海人常に聞く

あまつ日が 海の中より いでしとき 人はいくたび 喜びにけむ

天とほく 茜に染まり たなびきて 船漕ぎいでむ きほひおこれる

ひるがへる 旗にまたけき 幸をこめ 呼ばふ潮の 音かぎりなし

漕ぎいづる 船に心を とめむとぞ 浜の女人ら 目蔭すらしき

断崖の あかくつづきて そばだつを 山より来つる 人見けむかも